法雨抄

大和魂2005年05月01日

 兵庫県尼崎市のJR福知山線での快速電車の脱線事故は63年の旧国鉄横須賀線鶴見の多重衝突事故以来の惨事となり、107人の死者を出して、戦後列車事故史上4番目の惨事となりました。ただ亡くなられた方々のご冥福をお祈りするばかりです。
 なぜこんな痛ましい事故が起こったのでしょうか。これは運転手ばかりを責められないもっと奥の深いところに原因があるように思えてなりません。ひとつには人間の命の尊さ、そして自分一人と思っても、その自分一人に自分を取りまく多くの命がつながっていることの自覚が、言い換えれば私たちが生きていく上での大事な「生き方の知恵」と言うものが鈍ってしまった結果ではないでしょうか。その「磨きぬかれた生活の知恵」を昔の人は大和魂とか大和心といって大事にしてきたと言うことです。
 紫式部の源氏物語の中で、光源氏が自分の温床育ちを反省して、息子には人間としての本当の苦労をさせ、学問もさせて世の中をしっかり見る力を身につけてほしいと思って、大学にやろうと思った時、
 「大学にやって学問をして、一体何が磨かれるのですか」
 と問われて、源氏は
 「学問をすることで、大和魂を徹底して磨くのです。それが、これからのリーダーにとって最も大切なことなのです」
と答えているそうです。ここで大和魂という言葉について紫式部がこめた意味は「磨き抜かれた生活の知恵」と言うことだったと福岡県公立高校教諭占部賢志氏は言うのです。(ロータリーの友、4月号「生き方の鑑としての歴史」より)
 あの鎌倉の混乱期に皆で幸せになる道はどうあるべきかと、真の生きる知恵を求め続けた日蓮上人は顕立正意抄に
 国土乱れん時は先ず鬼神乱る、鬼神乱るるが故に万民乱る。
 と、この鬼神とは思想と読み替えても良いでしょう。

平成17年5月1日 「大和魂」

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