法雨抄

仕事に貴賎はない2001年01月01日

今年が佳い年でありますよう
    お祈り申しあげます


 ワシントン白亜館の朝でした。秘書が急用で大統領執務室に入ろうとした時、その廊下の隅で一心に靴を磨いている男がいました。秘書はその側を通りぬけようとして、あっと驚いて立ち止まりました。
 大統領リンカーンがしきりに自分の靴をみがいているのでした。
 「大統領、お身分にさわります。他人にでも見られたら具合が悪うございます」
 秘書はリンカーンが余りにもむき出しの田舎者で、粗野だと言う巷間の陰口を、いつも気にしていたので、その朝は思い切ってそう言ってみたのでした。
 するとリンカーンはあの人懐こい窪んだ目に微笑を浮かべながら、
 「ほう、靴磨きはそんなに恥ずかしいことかね。そりゃ違っていはしないかね。大統領も靴磨きも同じく世の為人の為に働く公僕だろう。世の中に卑しい業と言うものはないはずだよ。ただ心卑しい人はあるものだがね」
 リンカーンは靴墨のにおいの残った右手で、秘書の差し出した書類を手にとると、靴を磨いていた時と同じような熱心さでその書類を読みはじめたと言います。
 天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず、とか申しますが、私たちの仕事は天から与えられたもので、社会の歯車の一端を預けられたものではないでしょうか。仕事に貴賎の差があるのではなく、その仕事に如何に私たちの労働を投下し、その仕事の社会的機能を果たすかによって、尊卑がきまる、新しい世紀はそういう世紀にしたいものです。
 日蓮上人檀越某御返事に曰く
 「御宮仕えを法華経とおぼしめせ」

平成13年1月1日「仕事に貴賎はない」

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