法雨抄

老入れの生き方2007年04月01日

 江戸では、老後を「老入れ」(お入れ)と言いました。年を取ってから新しい人生が始まるような、新鮮な感じがしませんか。
 「江戸しぐさ」では、老人は人生の先輩として凛としたものを持ちながら、若い人たちを笑わせ、引き立て、良いものを伝えていくことを目標としています。一つでも後進の役に立つよう、自分自身の心を豊かに、健康に気をつけ元気に暮らすことから始めたいですね。独り暮らしのお年寄りと子供たちが交流し、老若共同で暮らしの新しい知恵やしくみを考える世の中にしたいと思います。
 これは朝日新聞に連載されていた江戸しぐさ語りべの会主宰越川礼子さんの、「江戸しぐさ」欄最後の一節でした。
 越川さんは江戸の松浦史料博物館に伝わる平戸藩主松浦静山の「甲子夜話」の中に書かれている、俳諧、歌舞、音曲、囃などの世界で七十歳、八十歳の老人が活躍していた様子に触れ、名君の老後の生き方に感動して、このような最後の一節を書かれたようですが、人生の達人といわれるような方々の達人たる所以はその老後の生き方にあるといってもいいのではないでしょうか。
 今は、価値観の変動が激しい時代ですが、老人たちは古きよき時代の素晴らしい生き方、素晴らしい知恵をもっている筈です。自分の生き方をしっかりと踏まえ、健康で、心豊かに、信ずる道を進んで行ってもらいたいものです。
 その背筋の通った生き方こそが今の時代の閉塞性を打破し、そこから新しい知恵やしくみを創りだす方策が見えてくるのではないでしょうか。
 中国にも「古訓を学べばすなわち得るあり」という言葉があります。先輩の業績に謙虚に学ぶ柔軟な心を失いたくないものであります。
 日蓮聖人十八円満抄に曰く
 総じて予が弟子等は、我が如く正理を修行し給え。

平成19年4月1日 「老入れの生き方」

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