法雨抄

レジの一言2007年03月01日

 うどん店に入った時のこと。レジに行くと三人が並んでいた。すぐ前の七十才代のござっぱりした服装の女性が、支払をする際、こう言った。「とてもいいお味で、ごちそうさまでした」
 それを聞いて、びっくりするやら、感心するやら。いい感じの人だなあ、と思って見ていた私に、「お先に」と会釈して帰っていかれた。
 お金を払っているという意識が強いから食事をしても無表情、無言で店を出る人。支払うお札がどっちを向いていようと、二つ折れになっていようと、お構いなしの人。レジの前だけでも、いろいろな人間模様があることに気付かされた。
 街の小さなうどん店での、さりげない一言や動作ではあったが、私の心に何か温かいものを残してくれた。
 「美しい国」は、こうした人たちの、つつましい感謝の言葉の積み重ねによって育まれ、支えられていくのだろうという気がする、
 と。久しぶりにすがすがしい投書に出会いました。先日の朝日新聞に載った兵庫県丹波市の中西節子さんの「レジの一言ごちそうさま」という投書でした。
 先日電車で、あいた席に「失礼します」と坐ろうとしたら、「どうぞ」という言葉が返ってきまして、めったにないことなので、何か嬉しくなって、掛けさせてもらって、話が弾んだ事がありましたが、知らぬ他人だって、袖振り合うも他生の縁というではないですか。ほんのちょっとした言葉がどんなに人間関係を温かなものにするかわかりません。何故この頃はこうした温かい言葉が少なくなったのでしょうか。仏様の言葉にも「和顔愛語」というのがあります。ギスギスした世の中であればあるほど私たちの周囲を優しいことばで温かなものにしたいものです。法華経方便品に曰く
 その言葉やわらかで、大勢のものの心を喜ばせ安らかにさせる。

平成19年3月1日 「レジの一言」

法雨抄一覧へ戻る