法雨抄

正常性バイアス2005年02月01日

 今年は阪神淡路大震災から十年になりました。あの記憶を風化させてはならないと言うことで様々の取り組みがなされました然し先の新潟中越地震では阪神淡路大震災で学んだはずの教訓が殆ど活かされていなかったという報告もあったようです。

 東京女子大学の広瀬弘忠教授の研究によりますと、もともと人間は、様々の変化に一つ一つ敏感に反応することで、神経が疲れ果ててしまうことを防ぐため、過敏に反応しないように、予期しない危険に対しては、有る程度鈍感にできているそうです。さらに、「平和」で「安全」な暮らしに浸って生きている現代人は、危険を「危険」と感知する能力が衰え、危険が迫っていても、「まだ大丈夫だ」「大したことはないだろう」と思い込む心理が働きます。この心理を「正常性バイアス」といい、その心理が災害時に働いてしまったために、危険に対して迅速に行動することができず、命を落としてしまうと言うケースが少なくありません。・・・・
危険に対して、「鈍感」なことと「冷静」であることとは紙一重です。(梅家族1月号)
 今次スマトラ沖地震にしても動物たちは危険を察知して山手の方に逃げたということですが、人間は正常性バイアスのためか、災難の前兆を見ることができず、大変な災害にあってしまいました。
 よく「災難だった」と言いますが、何の準備も用意もないところに突然降りかかったのが災難であって、用意万端整った所に降りかかってきても、それは災難とは言わないようです。要するに危険に対する私どもの受け止め方が問題なのではないでしょうか。人生諸般の問題についても同じことが言えそうです。
 日蓮上人は人生の最難事を臨終と捉え、妙法尼御前御書に曰く
 「賢きも、愚(はかな)きも、老いたるも、若きも、定めなき習い也。先ず臨終のことを習うて、後に他事を習うべし」

平成17年2月1日 「正常性バイアス」

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