法雨抄

体曲がれば影斜めなり2002年07月01日

 東北から島根県までいくつかの県を訪れ奥地で聞き取りをしました。何処へいってもお年寄りは、昔はクマどころか何も出てこなかったのに、このごろ夜になると、いっぱい動物が出てくると嘆いておられました。私は森の事を調べながら、こんなことをかんがえました。日本がなぜこんなに豊になれたのかと。それは私たちの祖先がつい最近まで、この広葉樹の自然の森を手つかずで奥地に残していたからです。この森からは1年中大量の水がこんこんとわき出していました。
 広葉樹の落ち葉をくぐって出てきた水は滋養がたっぷりで、この水を使って農業をすると農作物がよく育ちます。飲むととてもおいしい水です。そして工業用水になり、海に流れていって、藻を育てて漁場を作り、魚介類を増やしていたのです。
 これは日本熊森協会会長森山まり子さんのあるロータリーの大会での講演の一節です。(ロータリーの友)
 そう言えば、日光の野生の猿が昼間どうどうと町におりてきて、土産物をさらってゆく様が何度かテレビで放映されましたが、これも又森山さんの言う「豊な森」を破壊してしまった結果なのでしょう。
 私たちの住む周辺の環境整備については度々取り上げられますが、もっと根本的な我が国の自然界そのものの保護に付いては今一つ関心が薄いのではないでしようか。そして森山さんは、豊な森を失い、滅びようとしているのは動物だけではなく、人間を含めた全生物である、と警告しています。
 日蓮上人は寺泊御書に曰く
 「目の転ずる者は、大山転ずると思う」
 と、人間の心の目はすっかり眩んで、自然との絆をも勝手な判断で処理しようとしているのです。今一番大事な事は自然環境問題にせよ、政治経済の問題にせよ、物事を正しく見る目を養う事ではないでしょうか。日蓮上人諸経與法華経難易事に曰く
 「体曲がれば影斜めなり」

平成14年7月1日 「体曲がれば影斜めなり」

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