光と救い2001年12月01日
紀元前の73年ごろから同4年まで生きたユダヤの大王ヘロデの後半生を描いた、長編小説「凶王ヘロデ」を作家曽野綾子さんが書いた。
暴虐で知られるヘロデはローマの後ろ盾で王となり、エルサレムに大神殿を建造するなど、国家の繁栄を目指したが、一方で疑心暗鬼にかられ妻や息子、縁者らを次々に謀殺。晩年にはキリストの誕生を恐れ、ベツレヘム中の幼児を虐殺したと言われる。
作品はこの王の都市建設や治水事業に対する手腕に光をあてながら、王の傍らに仕えた「穴」と言う口のきけない竪琴ひきを語り手として人間ヘロデの心情を追って行くという形で展開する。そして
「水と建設への強い情熱を持った人物だったが、かたや妻殺し、子殺しを重ねた悪のイメージがある。ただ人間には完全な善人も完全な悪人もない。どんな悪人にも雲の間からもれ出る僅かな光、救いがある」と作者は言う。(長崎新聞「人物点描」)
敬虐なキリスト者である作者は、重罪人であるが、その僅かな光によってヘロデの救済を実証しようとしたのです。
仏教の世界で提婆達多(ダイバダッタ)と言えば、お釈迦様のライバルで、仏法の弘がるのを防げるために、色々な方法を講じ、お釈迦様とその弟子たちに、迫害を加え、生きながらにして地獄に落ちたといわれる、悪の権化みたいな人物でした。
しかしながら法華経で、提婆達多は前世においてお釈迦様の師匠であったとして、彼が天王如来と成仏することを約束されたのであります。それと言うのも、提婆達多はお釈迦様と並んで、生まれつき聡明で、理屈の分かる人でしたが、後に疑心暗鬼からお釈迦様の邪魔をするようになったので、その生来の人間性に光を当てられたということではなかったでしょうか。
日蓮上人観心本尊抄に曰く
無顧(=他を顧みることなき)悪人もなお妻子を慈愛す。菩薩界の一分なり。
平成13年12月1日「光と救い」