法雨抄

心を動かされた会談2006年05月01日

 不自由な体になって初めてわかったのだが、食べ物を口に入れてもらうだけで、入れてくれる人の心の中がわかるのである。「しっかり食べて元気になるのよ」という気持ちも伝わってくるから不思議である。弱者には他者に対して、してやれるなんの力もないが、不思議なことに相手の気持ちがまるで鏡でも見ているように目に映ってくるのである。(長崎新聞「音読コーナー」)と言うが、
 横田早紀江さんが「大変お忙しい中、時間を割いていただき、ありがとうございます」と語ると、ブッシュ大統領は「人間の尊厳と自由について話せないほど忙しくはない」と気遣いを見せる中で、拉致問題の話し合いが持たれたことは画期的なことでした。早紀江さんの気持ちは大統領の心の鏡に強く印象づけられたことでしょう。大統領が「最も心を動かされた会談の一つ」と言い、「一刻も早い解決を目指して頑張る」約束したということですが、人間の真実の心の叫びは以心伝心相手に伝わっていくものなのではないでしょうか。
 だのに何故この頃はその心の伝わらないと思われるような人が、そして事件が多いのでしょうか。
 伝わらないのではない、伝わらないような振りをしているのではないでしょうか。
 お釈迦様のおっしゃった末法の時代というのはこんな心を喪失した時代のことで、心を物にしたがわせて、「人間の心も金で買える」といった人がいたように、物によって心も決めていくというようなところまで落ち果て、物のために人間が争いあわなければならないという、わびしい、哀れな時代相のことではなかったでしょうか。
 今、日蓮聖人の「立正安国」の教えはそういった時代相に対する救済の決め手にほかなりません。其れは国ばかりでなく、人類に対する救済の悲願だったのです。曰く汝早く信仰の寸心を改めて速やかに実乗の一善に帰せよ。然れば三界は皆仏国也。

平成18年5月1日 「心を動かされた会談」

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