法雨抄

堅忍不抜1998年06月01日

大関若乃花がめでたく横綱に推挙されて第六十六代の横綱を張ることになりました。誠におめでたいことです。誰もが待ち望んだ兄弟横綱の誕生でした。
横綱昇進の使者が二子山部屋を訪れて昇進を伝達すると、若乃花は「横綱としてケンシンフバツの精神で精進していきます」と口上を述べました。若乃花がこの口上を述べると、どういう熟語かと報道陣はざわめきましたが、「堅忍不抜」を緊張の余り言い間違えたものとわかってけりがついたようでした。
堅忍不抜を諸橋大漢和辞典で引いてみますと、「堅くこらえて動かない」とありますが、若乃花は「我慢強く堪え忍ぶ」と解説しております。若乃花の心境を的確に表現した言葉ではないでしょうか。親方も「よく耐えて、よくがんばって、努力して今日があると思っている」とコメントしておりますが、若乃花のこうした強い心構えが今日の栄冠をもたらしたものと言うことが出来るのではないでしょうか。そうした若乃花の心のありようが、横綱昇進の使者を迎えて緊張の中で自然に「ケンシン」と出てしまったのではなかったでしょうか。「堅心」でも良かったのではないかとも思います。
若乃花については彼を横綱にすれば短命に終わる、大関のまま長く相撲をとらせたほうがいいなどと勝手な評論でうるさいことですが、横綱は何と言っても角界の最高峰として誰でもがそれを目指して努力しているのです。極端に言えば一日でもいいから横綱を張れれば力士冥利に尽きるというものではないでしょうか。然しそれでは相撲道に申し訳が立たない、だから堅い心で相撲道に精進して、一日でも長く綱を張るというのが今の若乃花の心境ではないかと思うのです。三役揃いぶみの前花道で合掌していた若乃花の姿が印象的でした。
日蓮聖人乗迹法門に曰く
人は怨みをなせども本より心すぐなれば仏神守りを加え給うなり。

(平成10年6月1日)

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