法雨抄

その声を聞け2007年02月01日

 城郭や文化財の石垣修復工事を手がけるわが穴太(あのう)衆に、代々伝わる教えがあります。
 石の声を聞き、石の行きたい所へ持って行け -- 。
 大きさも形も異なる不揃いの自然石をどう積み上げるのか。何故二、三百年という長い風雪に耐えることができるのか。答えは理論や理屈ではない。石積みとは、石と摘み手との一対一の語り合いであるというのです。
 古式特技法穴太衆石垣石積石工事第14代の粟田純司さんは、こう言って、更に自分の体験をかたっている。
 31歳になったある日、安土城の石垣修理をしていた時のことでした。熟慮の末に石を収めた時、何か「コトン」という音が聞こえた気がしたのです。私はその時、石が「これでよし」と答えてくれたように感じました。いまのが石の声というやつか。後で仕上がりを見てみると、やはりその石が収まりよく、落ち着いた雰囲気を漂わせています、と。(熊平金庫・抜粋のつづり第六十六より)
 仏像を彫るとき、木の中にいらっしゃる仏様が、彫り方を教えてくださる、と聞いたことがありますが、昔からある芸術作品などもそのものの声を聞いて、その美を最高に表現したものだと思います。偉大な発明、発見などといわれるものもみな、そのものの声を聞き、その主張を引き出してやった結果だったと考えることもできるのではないでしょうか。
 仏様の教えというのも、結局は私たち一人ひとりが持っている良いものをひきだし、それに磨きを掛けて、幸せにしてやろうということではなかったでしょうか。
 日蓮聖人観心本尊抄に曰く
 欲令衆生開仏知見等云々。天台この経文を承けて云く、もし衆生に仏の知見なくんば何ぞ開を論ずる所あらん。まさに知るべし、仏の知見の衆生に薀在することをや。

平成19年2月1日 「その声を聞け」

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