法雨抄

尊い命2004年10月01日

 イチロー選手があれよあれよという間に84年という時を乗り越えて、メジャー・リーグ年間最多安打新記録「262」を打ち立てました。素晴らしい、凄いというほかはありません。人間って偉大なんだとつくづく思いました。私たちは人間の可能性を垣間見させてもらいました。イチローは特殊な人かもしれませんが、人間は誰でもそんな偉大な可能性を持っているのではないでしょうか。だのに、今まことに簡単に人間が殺されています。養老孟司は言う、
 人間を形作っているシステムは非常に高度な仕組みになっているが、そのシステムを壊して死に至らしめることは極めて簡単な作業です。でもそのシステムを「お前作ってみろ」と言われた瞬間に、全く手も足も出ないということがわかるはずです。だから佛教では「生きているものを殺してはいけない」ということになるのです。
 月まで人間がいけると威張っているが、今やそういうことは理論的には難しいことではなくなっています。でも蝿や蚊を作ってみろといわれたら、お手上げです。
 然るにあちこちで命を平気で叩き潰している現代人が「何故人を殺してはいけないのか」と聞かれても答に詰まるのは当然かもしれません。(養老孟司著「死の壁」より)
 「じゃ、一歩ゆずって、人間は殺してはいけないとしても、蝿や蚊は害虫なんだから殺したっていいじゃないか」というかもしれませんが、この理屈でいけば「あいつはおれには蝿や蚊のような奴だから殺してやった」という理屈にもなりかねません。
 なるほど、私たちは肉も食べ、魚も食べます。そうした他の生き物の命の犠牲の上に生かされているのですから、この尊い命を大事にしなければなりません。だから佛教では無闇は殺生を戒めているのです。
 日蓮上人依法華経可延定業に曰く
 命と申す物は一身第一の珍宝(たから)也。一日なりともこれを延ぶるならば千万両の金(こがね)にも過ぎたり。

平成16年10月1日 「尊い命」

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