法雨抄

転機2000年07月01日

 或る日、喫茶店でコーヒーを飲みながら
 「今さら立ち直れったって、なにを寝言言うてんねん。口先だけで説教するのはやめてくれ。そんなに立ち直れって言うんやったら、私を中学生にもどしてくれ」と言ってしまった。其れを聞いた大平さんは、このとき、初めて大声をあげた。
 「確かに、あんたが道を踏み外したのは、あんただけのせいやないと思う。親も周囲も悪かったやろう。でもな、いつまでも立ち直ろうとしないのは、あんたのせいやで、甘えるな!」
と、外のお客さんが、カップを落としそうになるぐらいの大きな声と迫力で・・・。
 落雷にあったように体じゅうに電気が走った。
 < やっと、私と真剣に向き合ってくれる人に会えた・・・ >
- 中略 -
 < おっチャンは、本気で心配してくれてるんや・・・。私を人間としてあつかってくれてるんや・・・ >
 嬉しくて体が震えた。そして泣き崩れた。
 いじめから非行に走り、転落の底から立ち上がって、司法試験を突破し、いま非行少年の更生に努力している弁護士、話題の大平光代さんは、「だから、あなたも生きぬいて」のなかで、自分の立ち直りのきっかけとなった時の事をこう語っています。
 人は己を知る物の為には死すとも可なり、という諺があったように思いますが、光代さんは本気で心配してくれる大平さんの信頼に応えようと、それを転機として立ち直ったのです。
 誰にでも、聖なるものを求め、自分を高めて行きたい気持ちがありながら、安易に流れようとする自分に甘えているのです。
そうした甘えに踏ん切りをつけて、立ち上がる転機を、勇気を持って掴み取り、如何に努力するかが分かれ道となるのです。

 日蓮上人は富木殿御書に曰く
 「一生空しく過ごして、万歳悔ゆることなかれ」

平成12年7月1日 「転機」

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